バックグラウンド
国際線ビジネスクラスシートならフラットのベッドになって、通路に直接アクセスできなきゃ時代遅れ!という捉え方が2020年現在のビジネスクラスシートの考え方です。
でも当時はベッドにもならなかったし、隣に座る人に「Excuse me」と言ってトイレに行かなければいけませんでした。
ビジネスクラスシートはここ20年で一気に変わりました。
どう変わったのか?ぜひこの記事で紹介する動画を御覧ください!かなり気合入れて動画解説しました!
動画スクリプト
1990年代後半
現在のビジネスクラスシートは、クレードルというタイプのシートから始まったと言っても過言ではありません。
今となっては誰もが乗りたくない国際線ビジネスクラスシートですが、1990年後半はクレードルシートを採用するエアラインが多かったのです。シートのリクラインは最大160°ほどで、足おきのオットマンも使うと、ゆりかごに入って横になるような体勢でリラックスできるというのが売りでした。
リラックスできる体勢になれるとは言っても、やはりシートに座ってる感があるので、そこを改善するシートとして開発されたのが、1999年に初披露されたVirgin AtlanticのJ2000というシートです。
1999年
クレードルシートは背もたれ、座席が150−160°ぐらいだったのに対し、Virgin AtlanticのJ2000シートは180°になるAngled lie-flatと呼ばれるシートです。
このシートが画期的だった点は、ベッドにした時の面がフラットの180°になるので、クレードルシートの欠点であったシートに座っている感を乗り除くことができた点です。
ベッド自体はフラットですが、足元が上半身よりも低い位置になるように角度がつけられています。
角度があるため、寝ている間下の方にずり落ちてくるという苦情が相次ぎました。
JALのShell Flat NeoがAngled lie-flatシートの一例。
2000年
BAがイギリスのデザイン事務所のTangerineとコラボして開発した世界初、シートが180°フラットになるClub Worldを2000年に披露しました。
このシートが画期的な点は2つ。
まず、世界初、シートが機内のフロアと平行のフラットベッドになること。角度がついていないため、自宅のベッドで横になっているかのように寝ることができます。
これにより乗客の機内での疲労度を最小限に抑えることに成功しました。そして下にずり落ち問題も解決です。
次に、正面向きシートと、後方向きシートを交互に組み合わせてフロアスペースを最大限に活用したことです。
シートは上半身の部分が足元よりも広いデザインで、シート2つを前後で隣り合わせにすると、ちょうど上半身の広い部分の横に、隣の席の足元スペースが配置されるため、ワイドボディのB777にはフルフラットになるシートにも関わらず2-4-2という配置が可能になりました。
BA以外のエアラインがこのシートの採用を拒んだ理由が後ろ向きシートが使われていることでした。その当時はシートは正面を向いているのが当たり前だったので抵抗があったようです。
シートはフルフラットになり、たくさんシートを搭載できる。ですが窓側と真ん中のシートに座る人が通路に出るには、隣の人の足をまたがないといけない。そこが欠点でした。
2003年
この欠点を解決したのは、
2003年にVirgin AtlanticビジネスクラスであるUpper classに導入した世界初Herringboneシート(inward facing)です。
シートは正面向きではなく、全てのシートが通路側に向くように配置されました。この特別なシートの配置により、全てのシートから直接通路にアクセスできるようになりました。
つまり、自分の好きなタイミングで隣の人の足元をまたぐ必要もなくトイレにいくことができるようになりました。
ちなみにシートはBA同様フルフラットシートです。
Herringboneシートにも欠点がありました。それは、みんなが通路を向いているので通路を通る人からは丸見え、座っていても通路越しに座っている人の顔が見えてしまうことです。
プライバシー感が欠けている、さらに窓側に座る人は窓に背を向けているため外の景色を見るには、体ごと窓の方向にひねらないと見えないということであまり人気はありませんでした。
どのシートからも通路にアクセスでき、フルフラットで、プライベート感があるけど、同じ空間にできる限り多くのシートを設置できるようなビジネスクラスシートの開発が本格的に始まりました。
2009年
Zodiac (Safran)がCirrusというシートの開発に成功。初のReverse herringboneが後にAmericanと合併したUS airwaysの機内に搭載されました。
Reverse herringboneシートは私のキャセイの動画やカタール航空A380の動画でも紹介していますが、窓側シートは窓を向き、真ん中2席は中央を向いているシートの配置方法です。
これによりVirgin AtlanticのHerringboneの欠点であったプライベート感がない、窓が見えないという欠点が一気に解消されました。
2009年のReverse herringbone初披露以降、このシートタイプは人気になりたくさんのエアラインがReverse herringboneシートを搭載するようになりました。
あまりにも人気で、Reverse herringboneシートを開発したZodiacの独壇場でしたが、後にBE Aerospace(Colling Aerospace)もSuper diamondというReverse herringboneシートを開発。
ZodiacのCirrusシートをパワーアップさせ、使いやすくゴージャスにアレンジしたのがSuper diamondシートという印象です。
2020年現在、Reverse herringboneシートでエアラインとカスタマーに一番人気なのが、このSuper diamondシートです。
ビジネスクラスシートの最高峰はReverse herringboneシートと認知され始めていた期間が数年続きましたが、これに対抗する素晴らしいシートが徐々に出現し始めます。
2010
ANAは2010年に国際線B777ビジネスクラスに 、前後のシートが互い違いに配置されているstaggeredシート、ZodiacのSkyloungeを搭載しました。
Herringbone、Reverse herringboneとは異なり、正面向きのシートです。
自分の足が前の人のアームレストとカウンタースペースの下に入ることで、シートが占めるフロアスペースを節約して、できるだけ多くのシートを設置できるようにデザインされました。
コンソールの壁を高くすることで、高いプライバシー感を保つことに成功。
これにより、どこのシートに座っても他の搭乗客からは見られにくいとビジネス客から人気を得ました。
2013
Zodiacの競合BE Aerospaceは今までにないビジネスクラスの座席配置、Apexを開発。JALが2013年にApexを国際線機材に搭載。Sky Suite Iという名前で知られています。
正面向きシートを真横に並べるのではなく、前後少しずらすことで、直接通路にアクセスできるようにしました。
隣との境界線はパーティションを使うことで、自分の個室にいるかのようなプライベート感がある個室を作ることに成功。
2019年にメルボルン行きのJAL に乗り、Sky Suite窓側シートを体験しました。
横になると通路からも見られないほどの完璧なプライベート感です。
Apexの弱点は通路側シートは通路ギリギリに設置されているので、窓側シートのようにプライベート感がないこと。なので当たり外れのあるシート配置。
窓側に座れた人はラッキー、通路側はアンラッキーということです。
普段は飛行機の搭乗レビュー動画を中心に配信していますが、今回のようなビジネスクラスシートの解説とか、搭乗レビュー以外の動画もいいじゃん!という方、高評価ボタンで教えて下さい。
高評価が今私のチャンネルで一番再生されている、ANAファーストとJALファーストの比較動画よりも多くなったら、また今回のような動画作ってみようと思います。
2017年
これ以上ビジネスクラスシートは良くなるのか?
もうこれが頂点ではないか?
そう思っていたところに、2017年にカタール航空がQSuiteという世界初ドアつきのビジネスクラスシートを発表しました。これはBE Aerospaceと共同開発したシートです。
1人1人に与えられた広々としたスペース、そしてドアを閉めるとまるでファーストクラスではないか?と思わせるようなプライベート感。
正面向きと後方向きを互い違いに配列することにより実現しました。
中央席は真ん中のパーティションを下ろすとダブルベッドになったり、
モニターを左右に動かすことで、4人が顔を合わせて会話できるスペース、2人だけの個室、とバリエーションにとんだ使い方ができるのが特徴です。
私もQSuite体験しましたが、今までとは別次元のビジネスクラスでした。
こんなにいいビジネスクラスシートならファーストクラスに乗る必要はないのでは?というレベルにまで達しています。
ここからはちょっと裏話ですが、飛行機のシートにドアをつけるにはアメリカの航空局FAAの許可が必要で安全であることが必須条件です。
緊急事態に機内から全ての乗客が90秒以内に外に避難できるようなデザインでないと許可が下りません。なので普通にドアをつけると90秒で避難できなくなることが理由で、開発に時間がかかりました。
最終的に緊急時にはドアを引いて開けるのではなく、押すことで開けれるデザインを採用してFAAの許可がおりました。
-2020
カタール航空のQSuiteの成功を追いかけるように他のエアラインもビジネスクラスシートにドアをつけ始めました。
既存のビジネスクラスシートにドアをつけただけなのは
A350に搭載されいるDelta、Virgin Atlantic、British airwaysの最新シート
Deltaは2017年10月からThompson社のVantage LXにドアを着けて最新シートを使っています。
2019年に入りBritish airwaysがReverse heeringboneのSuper diamondにドアをつけました。
それを真似るかのように次の月からVirgin atlanticもA350に搭載されているSafran社のCirrus NGというReverse heeringboneシートにドアをつけました。
ドアがありプライベート感が高いのは確かですが、既存のシートを使っているので、すでに存在するシート自体の欠点は解消されません。
例えば、Deltaなら窓側シートはトレーテーブルを完全にしまわないと立ち上がることができなかったり、
Virgin Atlanticの場合、トレーテーブルとシートとがあまりにも近く、食事をする時に窮屈に感じたりするようです。
Deltaは正面向きのスタガードシートにドアをつけて、Virgin AtlanticとBritish airwaysはReverse herringboneにドアをつけました。
一方2019年にいきなり登場したANAのB777-300ERに搭載された新ビジネスクラスThe Room。
カタールのQSuiteはBE Aerospaceが開発しました。競合のZodiac(現Safran)は黙っていませんでした。ANAと共同開発してThe Roomを製造しました。プロダクトの名前はFusioといいます。
正面向きと後方向きシートを互い違いにしている点はQSuiteと同じですが、シート幅がThe Roomの方が広くつくられているためよりファーストクラスシートに近づきました。
もちろんドアもついているため、寝る時はドアをしめてゆっくり休むことができます。
このようにビジネスクラスシートの発展を振り返ると、約10年単位で大きく飛躍していることがわかります。
2000年に世界初のフロアと水平に寝れるフルフラットのビジネスクラスシートが開発され、
2010年前後には新しい座席配置のReverse herringboneが登場。これにより、全ての乗客が通路に直接アクセスでき、プライベート感が高いシートで旅行することが可能になりました。
そして2018年以降はビジネスクラスシートにドアをつけ、よりプライベート感を高め、ファーストクラスシートに近づきました。
2020年現在、一番いいビジネスクラスシートはANAのThe Roomと言われています。今後ビジネスクラスシートはどう変化していくのか?非常に楽しみです。
ANAのThe Roomにはまだ乗ってませんが、QSuiteをはじめ、たくさんのビジネスクラス搭乗レビュー動画を配信しています。ビジネスクラスだけではなく、ファーストクラスのレビューもしているので、ぜひチェックしてみてください。
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